ネスレコンフェクショナリー関西支店事件
大阪地判平17.3.30
T 事案の概要
@ A会社は、平成13年3月16日、ネスレジャパンが全額出資して設立され、同じくネ
スレジャパンの子会社であるネスレマッキントッシュから、菓子類などの製造・輸入などの業務を承継した会社である。
AA会社は、スーパーマーケットなどの店舗における販売促進業務を、B会社に外部委託することを決定した。
BA会社は、平成15年5月28日、販売促進業務に従事する有期労働契約の従業員に対し、上記の決定に関する説明会を開催し、併せて、同年6月30日をもって解雇する旨の意思表示をした。
C当該従業員らは、A会社がネスレマッキントッシュから業務を承継する以前においてはネスレマッキントッシュと、それ以後においてはA会社と、それぞれ雇用契約を締結し、同契約の更新をくり返してきた。
D当該従業員のうち、Cら5名の従業員は、A会社による解雇または雇止めが雇用権濫用の法理の適用または類推適用により無効であるとして、雇用契約上の権利を有することの確認と解雇以降の賃金支払いを求めて提訴した。
U 判決のポイント
a. 解雇は無効か否か。
@雇用契約の解約条項
雇用契約に解約条項(契約期間内に解約できる)が明記されており、原告Cらはそれを認識した上で雇用契約を締結したのだから、A会社と原告Cらとの間で合意が成立している。よって、解約条項には法的規範性が存する。(ルールとして有効である。)
A解約条項と民法との関係
民法628条は、一定期間解約申し入れを排除する旨の定めある雇用契約であっても、「やむを得ない事由」がある場合には、契約の解除を認めている。
よって、「やむを得ない事由」の存否が問われるべきであって、契約の解除が直ちに民法628条に違反するとは言えない。
B解約条項と就業規則との関係
就業規則は、解雇事由を限定列挙しており、本件の事由はそれに該当する。問題は、雇用期間の定めがある従業員に適用される就業規則が別に定められていないことであるが、この場合、正規従業員に適用される就業規則を準用しても、それが著しく不合理とまでは言えない。よって、就業規則に反するとは解されない。
C解雇と雇用権濫用の法理の適用の関係
雇用権濫用の法理が適用されるのは、(イ)契約期間満了を待たずに直ちに解雇を実施しなければならない経営上の必要性、緊急性がなく、かつ、(ロ)使用者が解雇回避にあらゆる努力を傾注しなかった場合である。本件の場合、(イ) (ロ)に相当する。
以上から、@、A、Bにかかわらず、Cの理由により、本件解雇は無効と裁判所は判断。
b. 雇止めが無効か否か
@雇止めと雇用権濫用の法理の類推適用の関係
有期労働契約の従業員が契約更新を期待する合理的理由があったか否かが重要である。
(イ)A会社は、たとえのちに外部委託をしたとはいえ、販売促進業務の重要性を従業員に周知せしめていた
(ロ)実際に契約更新が契約書の送付や口頭により、多年にわたって、くり返し行われてきた
(ハ)入社面接の際、販売促進業務に従事する者の勤務年数が長くなる旨の発言があった。
以上の事情から、有期労働契約の従業員が本件契約の更新を期待する合理的な理由があったと言うべき。
A雇止めと権利の濫用の関係
上記、a.のC解雇と雇用権濫用の法理の適用の関係において指摘したとおり、本件雇止めについても、その必要性、緊急性はなかった。
以上から、本件雇止めについても、裁判所は無効と判断した。
V 判決に学ぶべき点
@期間雇用契約中での解約について
民法628条は「やむを得ない事由」がある場合、契約の解除を認めています。これを逆に言えば、期間雇用契約中の解約を行う場合には、その「やむを得ない事由」を明瞭に示すことは肝要で、もしそれがなされれば、雇用権濫用法理の適用に及ぶことはなかったことでしょう。もっとも、民法628条の「やむを得ない事由」は、「客観的に合理的な理由であって社会通念上相当なもの」という解釈より、昨今は、さらに限定的に解されていますから、期間雇用契約の期間途中での解約はますます困難になっています。したがって、安易な解雇は禁物と心得るのが賢明と言えましょう。
A期間雇用契約の雇止めと雇用に関する法理の類推適用について
(イ)更新の手続き・実態、(ロ)業務自体の性質・契約上の地位の性格、(ハ)使用者の言動・態度などの事実関係から、雇用に関する法理の類推適用の当否が総合的に判断されます。
昨今の判例は、期間雇用契約がいくら反復更新しても期間満了をもって期間雇用は常に終了するという解釈ではなく、雇用に関する法理を類推適用して労働者を保護しようとする基本的立場に傾いています。したがって、上記の(イ)(ロ)(ハ)などの事実関係に前もって細心の注意を払うことが求められます。