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ジェイアール西日本メンテック事件

業務上必要な高齢者の処遇

JR東海中津川運輸区事件

名古屋地判平元16.12.15

 

 

T 事件の概要/事実関係

@       原告A (54歳)は、被告B (鉄道会社)の運転手である。

A       A は、手順に違反し、車輪に装着してある車止めの装備を破壊するという事故を起こした。

B       Aの上司である主任運転手は、事故の事情聴取の際、Aが虚偽の報告したこともあって、通常、事故を起こした場合に行われる再教育が必要と判断し、Aに再教育を受けさせた。

C       再教育後に、「知識確認」、「応急措置」などの4科目について審査したが、A は4科目全てに不合格となり、さらには再審査においても不合格となった。

D       B鉄道会社の就業規則は、60年定年を定めている。同時に、54歳に達した日以降の人事運用については、原則として出向を命ずると定めている。さらに労働組合との間に締結された定年協定においても、同様の定めの条項がある。

E       B鉄道会社は、再審査の結果、Aの運転手としての適性に問題があるとして、B鉄道会社の運転手経験者のほとんどが出向している会社への出向を命じた。その出向先でのA の業務は清掃作業であった。

F これに対しA は、(イ)出向先での業務が運転手の経験が何ら生かされない清掃作業であること、(ロ)出向先へは片道2時間もかかることを理由に、本件出向は職権乱用に当たり、出向命令は無効であるとして、出向先で就労する義務のないことの確認および慰謝料を請求した。

 

U 名古屋地裁の判決

原告Aの請求棄却

判決理由:

@     使用者の出向命令が職権乱用に当たるか否かに関しては、東亜ペイント事件の最高裁判決(昭61・7・14)と同様の判断基準によって判断するのが相当である。

しかるに同判決においては、「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は職権の乱用となるものではない」としている。

A     本件の認定事実に「不当な動機・目的をもってされたものであるとき、若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する」か否かを個別に見ると、以下のとおりである。

a.55歳から60歳に定年延長をしようとする場合、人件費の増大を抑え、人事の停滞を回避するための措置として、54歳以上の社員の原則出向の措置を取ることは、一般に業務上の必要性の存在を肯定し得る

b. 原告Aが、事故後再審査において不合格であった事実をもって、運転手としての適性を欠くとB鉄道会社が判断し、また、Aが54歳の出向年齢に達しているゆえに関連会社へ出向を命じたことは、就業規則および労使間の定年協定の定めに何ら違背せず、妥当なものと判断する。

c.本件出向により 原告Aの通勤時間が2時間に及ぶが、2時間程度をかけて通勤する者は多数いるのだから、これをもって原告Aのみが著しく不利益になったとは言えない。

d.運転手経験者で清掃作業に従事する者は原告Aだけではないのだから、これまた、原告Aのみが著しく不利益になったとは言えない

e.本件出向により原告Aの労働時間が増加(年間換算で220時間30分)したが,それは原告Aに限ったことではない。しかも基本給に変動がないばかりでなく、賃金上の特別措置が講じられていることを勘案すれば、格別に原告Aが不利となっているわけではない。事実、原告Aの賃金は、1か月当たり51,000円の増額となっている。

以上から、本件出向命令は、被告B鉄道会社の業務上の必要性に基づくものであり、原告Aが「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を強いられたものと言うことはできない。よって、本件出向命令は、権利の濫用に該当するとは言えない。

 

V ポイント/教訓

本件についての問題点は、次の2点。

@       本件出向が復帰を予定しない出向であること。

A       出向先の業務が出向元の運転業務と異質の清掃業務であること。

 

@については、就業規則および労使間の定年協定が「54歳に達した日以降の原則出向」を定めていることから、定年まで復帰を予定しないことが前提となっていると見るべきで、復帰を予定しない出向であるゆえをもって権利の濫用であるという主張は通らない

Aについては、就業規則および労使間の定年協定において、出向先の業務が特定されていない限り、就業規則上使用者に認められた配置権の範囲内と解すべきである。事実、多くの運転手経験者が清掃作業に従事しているのだから、清掃作業は原告Aらの労働契約上想定された範囲の業務と言える。

 



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