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能力不足を理由に「普通解雇」ができるか?

D能力不足を理由に「普通解雇」ができるか?

 

T 新卒一括採用されたゼネラリストの場合

結論から言えば、単なる能力不足を理由に普通解雇をすることはできません。

能力不足を理由に普通解雇をするには、次のいずれかを立証しなければなりません。

a.能力不足のゆえに労働契約の債務不履行が生じている。

b.能力不足が労働契約を継続できないほどの事由に該当する。

上記のaまたはbを立証するには、労働契約にあらかじめ、会社が社員に期待する「特定の業務を遂行するための具体的な能力」を明示しておく必要があります。それがなくては、何をもって能力の有り無しを判定したかについて、客観的な基準を示し得ないからです。

しかるに、実態を見ると、労働契約に「特定の業務を遂行するための具体的な能力」が明示されているとは言えません。

実態の@
 会社が新卒を一括採用する場合、出身校(学歴)や学校の成績、さらには入社試験の成績や面接における人物評価を通して、採用を決定します。と言うことは、会社自体が「能力あり」と判断したことを意味します。

実態のA
 会社が新卒を一括採用する場合、どのような部署に配属するかを前もって決めてはいません。ましてや、具体的にどのような業務に従事させるかは未定です。

これでは「特定の業務を遂行するための具体的な能力」を明示したことにはなりません。

事実としては、会社の期待する能力に及ばない社員は存在します。しかし「能力あり」と判断したのは会社自体、つまり、実際に能力があるかどうかのリスクを取ったのは会社自体なのですから、結果の責めは会社に帰することになります。

実態のB
 どの会社も人事考課を通じて能力評価を行い、それに応じて賃金に格差をつけています。

以上の実態を勘案すると、能力不足は、せいぜい賃金面で対応されるべきで、普通解雇の事由に相当するとまで解さない。そのほうが解雇権濫用の法理に適っていると考えられます。

 

 

U 新卒一括採用されたスペシャリストの場合

スペシャリストとは、その専門能力を生かせる職種を特定して労働契約を結んだ社員のことです。スペシャリストの場合、ゼネラリストと異なり、たとえ配属される具体的な部署や具体的な業務が明示されなくても、会社がどのような「特定の業務を遂行するための具体的な能力」を期待しているかについて、十分に予測ができます。それゆえ、能力不足が解雇の事由になり得る度合いは、ゼネラリストに比べれば高くなると考えられます。

しかし、一括採用である限り、「能力あり」と判断した会社のリスクは免れませんから、「能力不足」即「普通解雇」というほど、事は単純ではありません。多くの場合、自分の専門能力がフルに生かせる職種への配置転換を求めます。

これの対応策としては、労働契約締結時に「配転・職種変更はしない。労働契約で特定された職務遂行能力がなければ、契約を解消する」ということを明示しておく。そうすれば解雇も可能になると考えられます。

 

 

V 中途採用した地位特定者の場合

地位特定者とは、たとえば大企業の営業課長がその能力を買われて中小・零細企業に営業部長の「地位を特定して採用された人」のことです。

結論から言えば、地位特定者の能力の不足や適性の欠如は、決定的な普通解雇事由になります。

地位特定者は、労働契約で地位が特定される(当然のことにそれにふさわしい報酬も約束される)以上、その見返りとして、職務を遂行する具体的な能力と適格性が求められることは当然です。もちろん、それが契約の内容となります。

さらには、地位を特定して結ぶ労働契約は、通常の労働契約に比べ、もっと広い概念の裏づけがあります。すなわち、「対等当事者を前提とした民事法に近い概念の契約を結ぶこと」と理解されるからです。

しかし、そうは言っても、解雇を円滑に行うには、いくつかの条件があります。

a.地位を特定して採用するのですから、労働契約の当事者は、当然のことに、特定の個人です。それゆえ、労働契約書は個別に作成すること

b.地位を特定して採用する以上、特定した地位(職名)を具体的に労働契約書に明記すること。

c.「地位にふさわしい職務の遂行」というような抽象的な表現ではなく、会社が期待する職務内容を具体的に記載すること。その際、「その他、各項に準ずる業務」という「一般条項」を盛りこむこと。

d.単に職務内容を列挙するにとどまらず、それらの職務遂行を通して、最終的に果たすべき目標、会社経営に資するための役割を明示すること。

e.地位が特定されることの見返りとして、高い職務の遂行能力や適格性を求める以上、その地位にふさわしい報酬、待遇を供すること。そうすることによって、名実ともに「地位特定者」であることが明確になります。そこまでしておけば、万一、能力不足が露呈した場合、直ちに「契約不履行」をもって解雇することができましょう。


 

 

W 中途採用した専門職者の場合

中途採用した専門職者は、「地位特定者」のように格別の厚遇を与えられるわけではありませんから、「能力不足」即「普通解雇」というのはムリです。これまでの判例から察するに、企業の雇用確保の責務が問われそうです。具体的には、配転や職種変更を提示して、再挑戦の機会を与える必要があります。

この場合、当人が配転や職種変更を拒めば、解雇の事由となることでしょう。

しかし、最善の道は、当人から退職を申し出させることです。

その可能性は大です。その理由:

a.専門職者は専門以外の分野で能力を発揮することがむずかしい。それを一番知っているのは当人自身である。

b.これまでに培ってきたスキルや技術をムダにすることは耐えられないことであり、それを駆使できる新天地を探そうと考える。

c.専門職者は一般的にプライドが高く、非専門者と机を並べる気にはなれない。

退職を申し出た場合、次のようなケースが生じます。

イ.再就職先が見つかるまで、時間の猶予(たとえば3か月)が欲しいと要望する。

ロ.退職すれば無職となるが、無職からの再就職はむずかしい。そこで転職としたいので在籍を認めて欲しいと要望する。

この場合の得策は、これらの要望を受け入れることです。解雇権の濫用などと言い立てられるより、円満に退職してもらったほうが、結局は会社にとってプラスになるはずです。

ただし、いずれも出社をさせず、たとえば3か月なら3か月分の給料を払うのです。退職すると決まった人物を社内に置くことは、相手が専門職者だけに会社のノウハウを盗まれる危険性があるからです。

これらの交渉を進める際に注意すべきことは、相手のプライドを傷つけないことです。

 

では、配転や職種変更を提示しようにもその先がないという中小・零細企業は、どう対応したらよいのでしょう? 能力不足の社員は、結果として余剰人員ですから、会社にその余剰人員を雇用しつづける余力のないことをキチンと説明できれば、行政当局も司法当局も、これを解雇権の濫用とは見なさないはずです。

 

即戦力の確保の目的で中途採用はますます増えることでしょう。しかし,性急になることは禁物です。労働契約を結ぶに当たっては、「要求する経験年数」「職務遂行能力」「課される目標値」などを具体的に明示し、双方合意の上で労働契約書に明記することが肝心です。そうすれば「能力不足」が客観的に証明されますから、解雇の結果、訴訟を起されても、裁判所は十分に考慮するはずです。



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